要望書

演劇の灯を絶やさないために、演劇の未来のためにご支援をお願いします。

 日本には多種多彩な演劇上演団体があり、民間や公共の劇場、演劇鑑賞会や学校公演などを通じ、全国津々浦々まで最先端の文化を行きわたらせる役割を長く担ってきました。また、自殺者の増加、孤立する高齢者・若者の増加など、心の問題が深刻となる中で、劇場は人々の居場所として機能するとともに、そこに世界水準の高い芸術性を持つ演劇コンテンツを発信することで、心の問題をケアし、サポートしています。演劇人たちは社会を映す鏡として、多様な演劇作品を生み出し、今を生きる人々へのエールを送り、人と人をつなげる役割を担ってきたと確信しています。

 そんな中、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による危機が世界を襲いました。そしてついに、安倍首相より、全国に向けて外出の自粛を要請する「緊急事態宣言」が出されました。一般企業や特定業種への自粛要求が為されるなか、劇場の休業などの要請が出され、さらに地方自治体による公立文化施設の休館措置もあり、公演だけでなく稽古、講座その他も実質中止を余儀なくされています。

 演劇興行界では緊急事態に先駆け、ベント自粛要請の出された2月末にいち早く、大、中劇場での公演を中止あるいは延期し、また一方小劇場での演劇公演では感染防止のための最大の衛生措置をとっての上演といたしました。その努力もあって今に至るまで劇場での感染報告は届いていません。しかし、中止の場合はもとより、実施の場合でもキャンセル、払い戻しなどの特別対応も行ったこともあり、結果として多額の負債、未払いが残されることになりました。そこに更なる長期的な自粛要請が為されたわけです。けれど、この未曾有の状況の中、感染防止という社会的要請は、私たち自身、そして劇場にいらっしゃる観客にとっての安全確保でもあり、それに応えることは当然のことと私たち演劇人は考えています。

 しかし、それは同時に、これから最低でも数ヶ月間の公演活動を停止することを意味しています。興行・劇団の経済を支えるチケット売上げ、上演料収入がゼロになり、劇団・興行団体自体も危機に陥りますが、公演に参加している劇作家や俳優、演出家等のスタッフに加えて大道具や照明、音響会社、その先にある、演劇制作企業、民間劇場、公立文化施設、チケット取扱企業や宣伝、デザイン、印刷に関わる人々等、幅広い人々の雇用を喪失させ、収入を失わせる結果になります。また、育成事業、講座なども休止を余儀なくされています。総合芸術と言われる演劇だからこその複合的な経済危機を迎えていると言えるのです。

 これは長い日本演劇史で、かつて遭遇したことのない事態と言えます。公演活動の自粛は興行・演劇団体の経済的な死を意味すると同時に、「人と人とのつながり、居場所作り、コミュニケーション教育、対話の面白さ」等、演劇が生み出すありとあらゆるもの、いちどなくなってしまったら取返せない有形、無形のものを破壊します。演劇公演が再開できるとき、劇場、劇団、興行団体、鑑賞組織が生き残れていない可能性もあります。そこにあったはずの人と人とのあいだの様々な可能性がなくなるのです。

 「演劇の死」は、現代ではなにより貴重で大切な「対話の死」「想像力の死」とも言えるのです。
 私たちは何を望むのか。それは希望です。希望を繋ぐために、演劇を支え、人を育て、公演を作ってきた組織、団体が継続できる資金、それを支えている俳優等の実演家、劇作家、演出家等のスタッフ、制作、大道具製作や劇場のスタッフに至るまで、演劇を愛し、演劇を支えている人々の情熱が途切れないための支援が必要です。これは文化芸術基本法で定められた芸術家の権利であると同時に、憲法25条で定められた国民の権利でもあります。

 文化庁は第一次補正予算のひとつに14億円の「最先端技術を活用した鑑賞環境の改善と文化施設の収益力強化」を計上し、東京都は「ネット配信で一団体100万」という緊急助成を提起しました。しかし、これは舞台芸術の最大の強みである「舞台と観客が劇場で共に作る」という舞台芸術の本質助成にはなっていません。

 私たちは、今回のコロナ禍によって、日本の文化政策の基盤の弱さを思い知りました。今後の政策として、文化予算の大幅増額に加えて、演劇人・演劇団体等を含む実演芸術全般の活動基盤を支える新たな法案の検討をも強く提起します。

 具体的には以下のことを要望します。
①    今回の事態が戦後最大の危機であるという認識に立って、今年度の第二次補正予算を組み、文化芸術振興議員連盟が緊急決議した「文化芸術復興基金」を起ち上げ、専門機関で個々の芸術ジャンルの特質に対応した資金援助、助成を行うようにすること。この支援システムの策定に際しては、演劇関連団体の意見を踏まえること。また運営機関へ意見反映にも務めること。

②    東京都等の関係自治体での感染拡大防止協力金等の支援を、演劇等の公演・イベントや民間劇場も対象事業とすること。また地方公共団体独自の支援策を講ずるとともに、前項の基金への拠出も検討すること。

③    この基金制度が確立するまでは、演劇芸術を愛し、その継続を願う民間の財団、企業家等からの寄付を受け入れ、(公社)日本劇団協議会等の演劇関連の公益法人を窓口としての緊急支援を行なう。これはあくまで①の復興基金ができるまでの緊急措置とし、一律一定額の支援とする。国にはこの寄付金についての税制上での優遇措置をお願いしたい。また基金設立後は、そこに寄付金を編入することとする。

④    当面決定できることとして
(1)  文化庁、芸術文化振興基金等の助成、委託事業については、中止になった場合でもその経費についての支援は行うこと。特に劇作料、演出料、各プラン料、稽古費、出演費、企画および制作費などの人件費についての補償がなされるよう特別の配慮を行うこと。
(2)  劇団等が行っている学校での演劇鑑賞事業は、よりよい人間形成に不可欠な芸術教育の一環をなすものであり、その上演中止に対しては予定収入の全額補償がされることが望ましい、そのための制度設計をお願いしたい。また、学校教育における部活その他での指導者が休校措置等で中止された場合の所得補償についての制度設計もお願いしたい。

演劇の灯を絶やさないために、皆様のご助力をお願いします。